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岡山地方裁判所 昭和61年(ワ)810号 判決

原告

国鉄労働組合岡山地方本部

右代表者執行委員長

相原宏志

右訴訟代理人弁護士

浦部信児

被告

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

石月昭二

右訴訟代理人弁護士

松岡一章

被告訴訟代理人

周藤雅宏

福田隆司

主文

一  被告は、原告に対して、金五〇万円及びこれに対する昭和六一年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五〇分し、その一を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対して、金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六一年一一月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、もと日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)と称し、鉄道事業等を営んでいたものであるが、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道改革法一五条、同法付則二項、日本国有鉄道清算事業団法九条一項及び同法付則二条により、日本国有鉄道清算事業団となった。原告は、国鉄に雇用され、岡山鉄道管理局及び新幹線総局に配属された労働者によって構成された労働組合であり、国鉄労働組合(以下「国労」という。)の下部機関であるが、独自の規約を備え、固有の資産を有している法人格なき社団である。

2  「人材活用センター」への配置転換

被告は、昭和六一年七月一日以降、「人材活用センター」という職制部門を新設し、別表一ないし八(略)のとおり原告所属の組合員を「担務指定」という形で三八カ所の人材活用センターに実質配置転換した。この人材活用センターに配置転換された職員は、原職場から隔離されて、無意味で屈辱的な苦役ともいうべき労働に従事させられ、国鉄の分割・民営化により設立される会社に就職させないで、被告に所属させて実質上解雇要員とされるという不利益取扱いを受けるものである。また、この不利益取扱いは、原告に留まれば実質上解雇されるものとの不安をあおり立て、原告から組合員を脱退させることを意図したもので原告に対する支配介入にもあたる。

3  因果関係

被告には、原告の外に鉄労、動労、施労等の労働組合があったにもかかわらず、人材活用センターに担務指定された職員の内、原告の組合員が七六・九パーセントを締め、特に原告の幹部をねらい打ちしたものであり、被告の不当労働行為意思は明白である。そして、これに基づき不利益取扱いをしたことも明らかである。

4  違法性及び損害

被告が原告の組合員らに対して行った人材活用センターへの不当な配置転換の結果、原告は大量の脱退者を出し、組合員の数は激減し、その結果、組織上、活動上も大きな打撃を受けた。被告の右行為は、原告の団結権を侵害する不法行為であるから、原告は、被告に対し右損害に対する慰謝料請求権を有している。そして、その額は、昭和六一年一〇月までの原告からの脱退者が約七〇〇名であることに鑑みて、一人当たりの年間組合費を六万円としても組合在籍期間一五年分の原告の逸失額は六億円を下らないことからも、五〇〇〇万円が相当である。

5  よって、原告は被告に対し、金五〇〇〇万円及び右金員に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六一年一一月二三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実の内、原告が権利能力なき社団であることは知らないが、その余の事実は認める。

2  同2の事実の内、被告が昭和六一年七月一日以降、「人材活用センター」を設立し、別表一ないし八のとおり原告所属の組合員を「担務指定」し、三九カ所の人材活用センターに配属したことは認め、その余の事実は否認する。

人材活用センターは、担務指定を受けた職員の詰所であり、職制部門ではなく、又、担務指定は、配置転換ではなく、被告の就業規則二六条二項に基づく現業機関等の長がなす「担務」の「指定」である。

人材活用センターに担務指定された前後で詰所の変わらない職員が本件二八九名中七四名もおり、詰所が別の建物に変わった者はわずか八名にすぎない。

人材活用センターでの労働は、無意義、屈辱的な苦役とは到底いえないものである。

さらに、本件二八九名のほとんどが、分割民営後の新会社である西日本旅客鉄道株式会社の社員として採用されている。

3  同3の事実の内、原告の外に「鉄労」「動労」「施労」等の労働組合が存在したことは認め、その余の事実は否認する。

人材活用センターに担務指定がされた当時、被告岡山鉄道管理局及び新幹線総局岡山地区の職員総数は約五八八〇名で、そのうち原告所属の職員数は約三六五〇名、でその割合は約六二パーセントであったから、原告所属の職員が特に高率の割合で人材活用センターに担務指定されたわけではない。

4  同4の事実は否認する。

人材活用センターへの担務指定は不当労働行為ではないから、原告の権利を侵害していない以上、不法行為も成立しない。

原告の組合員数が減少したのは、原告の組合員が行った企業秩序違背にその原因があるので、被告の人材活用センターへの担務指定とは因果関係がない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する(略)。

理由

一  請求原因1の事実の内、被告の法的地位については、当事者間に争いがなく、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、原告が岡山鉄道管理局・新幹線総局に配属された労働者で構成された労働組合であり、国鉄労働組合の下部機関であるが、独自の規約を備え、固有の資産を有している法人格なき社団であることが認められる。

二1  請求原因2の事実の内、被告が昭和六一年七月一日以降、「人材活用センター」を新設し、別表一ないし八のとおり原告所属の組合員を「担務指定」し、三八カ所の人材活用センターに配属したことは、当事者間に争いがない。

2  そこで、人材活用センターの実態について検討する。

証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  国鉄改革の経過

(1) 国鉄は、昭和三九年度以降経営が悪化し、巨額の累積債務を抱えるに至り、昭和五六年三月に発足した第二次臨時行政調査会は、昭和五七年七月、臨時行政調査会基本答申において、国鉄の事業を分割し、それぞれ民営化するという基本方針と、新事業形態移行までにとるべき措置として職場規律の確立等一一項目を掲げ、提言した。

これを受けて、昭和五八年五月には「日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法」が成立し、同年六月、国鉄再建監理委員会が総理府に設置された。この委員会は、経営管理の適正化、事業分野の整理等の提言を行い、政府もこれを推進すると表明し、昭和六〇年七月には、最終答申が内閣総理大臣に提出された。その内容は、〈1〉国鉄事業の再生には国鉄の分割、民営化の断行が必要で、〈2〉旅客部門を六地域に分割する、〈3〉貨物部門は旅客部門と切り離す、〈4〉新幹線は一括保有して旅客会社に貸し付ける、〈5〉分割、民営化の時期は昭和六二年四月一日とする、〈6〉新事業体の適正要員は一八万三〇〇〇人であるなどというものであった。そして、国鉄の昭和六二年度在籍職員数二七万六〇〇〇人のうち、余剰となる九万三〇〇〇人については、その内の約二万人は希望退職者を募集する、約三万二〇〇〇人は新旅客会社で雇用する、約四万一〇〇〇人は旧国鉄に所属させ、三年間で転職させるとの内容であった。

(2) 政府は、基本的に国鉄再建監理委員会の意見に沿って国鉄改革を具体的に実施していくことを閣議決定し、昭和六一年五月には「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律」が成立し、同年一一月には国鉄改革関連八法が成立し、同年一二月四日に公布、施行された。この際、参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会は、新事業体の職員の採用基準及び選定方法については客観的かつ公平なものとするよう配慮し、所属労働組合等による差別が行われないよう留意することとの内容を含む一三項の付帯決議がされた。

(3) 運輸大臣は、新会社の設立委員を任命し、設立委員は、同年一二月、職員の採用基準及び労働条件を決定し、昭和六二年二月、各新会社毎の採用内定者を国鉄が提出した採用候補者名簿のとおり決定し、これを受けて退職者に対する補充や新会社に応じた職場に職員を配置するために同年三月一〇日付けで大規模な人事異動が行われた。

そして、同年四月一日、新会社が発足し、国鉄の事業、業務が引き継がれた。

(二)  国鉄における労使関係と国労分裂の経過

(1) 国鉄時代には、原告の上部団体である国労の外、国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)、鉄道労働組合(以下「鉄労」という。)、全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という。)、全国鉄動力車労働組合連合会(以下「全動労」という。)などの労働組合があった。

(2) 国労と国鉄は、昭和四六年三月に「雇用の安定等に関する協約」(以下「雇用安定協約」という。)を、同年五月に「配置転換に関する協約」を締結し、本人の意思に反する免職、降職は行わない、他の系統への配置転換に当たっては、要員需給等を勘案し、原則として同等職から行うようにするなどを合意していた。

(3) 国鉄は、昭和五七年三月、闇手当、突発休や現場協議制の運用の乱れが問題となったことから、「職場規律の総点検及び是正について」という通達を出し、同年から昭和六〇年まで職場規律の総点検を行い、昭和五七年七月には昭和四三年四月以降設けられていた現場協議制度に代えて、「現場協議委員会制度」を新設するという協約改訂を各組合に申し入れ、また、昭和五九年六月には「昭和五九年度要員計画について」「余剰人員対策について」を発表した。そして、国鉄は、昭和五九年二月のダイヤ改正により発生した余剰員削減策として「余剰人員対策について」を発表し、五六歳以上の特別昇給の停止、五五歳以上の定期昇給、ベースアップの停止、休職制度の確立、派遣制度の確立を内容とする「余剰人員調整策」を提案した。さらに、国鉄は、昭和六一年一月各組合に対して、労使共同宣言の案を提示した。

これらのいずれについても、国労は反対の立場をとり、昭和五九年一二月以降は現場協議に関して無協約の状態に、昭和六〇年一二月以降は雇用安定協約について無協約の状態になった。

なお、動労、鉄労、全施労は「余剰人員調整策」を一部修正の上妥結し、雇用安定協約も継続締結し、昭和六一年一月に第一次労使共同宣言を、同年八月には第二次労使共同宣言を受け入れた。

(4) 国労は、昭和六一年七月の定期全国大会で、場合によっては大胆な妥協が必要であるなどとした運動方針を決定し、同年一〇月、静岡県修善寺町で臨時全国大会を開催したが、中央闘争委員会が提案した〈1〉労使共同宣言と雇用安定協約の締結、〈2〉不当労働行為などの提訴取り下げ、〈3〉点検・摘発行動の中止などを盛り込んだ「当面する情勢に対する緊急方針」を否決し、これまでの分割・民営化反対の方針を堅持することを決定した。このため、山崎委員長外の執行部は総辞職し、六本木委員長外の新執行部を選出した。

国労所属組合員は、昭和六一年七月には約一五万七〇〇〇人(組合員有資格職員の約六六パーセント)であったが、同年一〇月には約一二万二〇〇〇人(同約五二パーセント)に、昭和六二年一月には約八万五〇〇〇人(同約三八パーセント)に、同年三月には約六万一〇〇〇人(同約二八パーセント)に、同年四月には約四万四〇〇〇人(同約二四パーセント)に減少した。

原告の所属組合員の推移も右と同様の経過をたどり、昭和六一年七月には約五〇〇〇人であったが、同年一〇月には約三〇〇〇人(組合員有資格者の約五三パーセント)、昭和六二年二月には約一四〇〇人(同約二六パーセント)、同年四月には約八三〇人(同約一八パーセント)となった。

その後、国労旧主流派は、昭和六二年二月二八日、鉄産総連を結成した。

(三)  人材活用センターの設置

(1) 国鉄では、昭和五九年二月以後のダイヤ改正により大量の余剰人員が発生したため、増収のための特別改札、経費節減のための外注作業の一部直営施行、多能化教育の実施などの余剰人員活用策、並びに関連企業等への派遣、退職前提の休職制度の適用拡大、復職前提の休職制度の新設などの余剰人員調整策を推進したが、さらに国鉄の分割、民営化に向けて八万人以上の余剰人員の発生が見込まれることから、これらを有効に活用するためと称して、昭和六一年六月二一日付けで、本社職員局長から各総局長、各鉄道管理局長宛に「要員運用の厳正化について」という通達(〈証拠略〉)を出し、同年七月一日以降、全国一〇一〇カ所の駅、区などに人材活用センターを設置した。

(2) ところで、人材活用センターへの人員配置は、就業規則二六条二項による、人材活用センターが設置された駅や区などの所属長が担務を指定する(以下「担務指定」という。)ことで行われ、特別に当該職員の同意を得るなどの措置はとらなかった。そして、職場内に人材活用センターが設置されていない場合には、人材活用センターが設置されている他の職場への兼務発令を行い、兼務することとなった新たな職場において、その所属長が担務指定を行った。

(3) 国鉄岡山鉄道管理局内でも三八カ所の人材活用センターが設置され、昭和六二年二月まで「担務指定」が行われたが、昭和六一年七月五日から同年一〇月一日までの間では、八次にわたり合計三七六名が配置され、そのうち原告所属組合員は二八九名(約七七パーセント)であり、他組合員は八七名である。

(4) 人材活用センターに配属された原告所属組合員二八九名の内、従前の詰所と同一の詰所を使用していた者は七四名いたが、八名は別の建物の詰所に移され、他の者は従前と同一建物内の別の部屋をあてがわれ、鉄道輸送に直接係わる「本来業務」を遂行する者とは切り離された。特に岡山車掌区から岡山駅へ、あるいは気道車区から岡山機関区へなど兼務発令の後に人材活用センターに担務指定された場合は、原勤務場所とはかなり離れた場所に勤務場所が変更された。

(5) 原告所属組合員らの配属された人材活用センターにおける職務内容は、新会社発足に伴う業務変更に対応するための転換教育も一部あったが、大多数は、鉄道輸送とは直接関係のない鉄道沿線の除草作業、ホームのペンキ塗り、庁舎や無人駅の清掃、日報の作成、文書の配布、遺失物の運搬、布団干し、着札整理、車両清掃、その他の作業などであり(いわゆる「本務外し」)、総じて閑散な上、単純作業であり、特別の技能を要しないものである。

ことに、岡山車掌区の原告所属組合員が指示された岡山駅での着札整理は、廊下から離れた窓もない部屋で助役の監視下に行われており、このような単純で無意味な作業は原告所属組合員に苦痛をもたらす以外の何ものでもなかった。被告は、右着札整理の結果は、「岡山駅着札流動調査結果概況報告」(〈証拠略〉)に纏められており、無意味なものでないというが、右報告書は、原告所属組合員の関与なしに作成されており、実際上もダイヤ改正に役立つなどの有用性があるものでもない。

また、被告は、岡山駅の直営販売店(メルシー)の業務は希望者が多かったというが、原告所属組合員を担務指定する際に希望を聞いた訳でもなく、本来業務からはずれるという点では人材活用センターの他の業務と同じである。

更に被告は、岡山鉄道管理局施設部の保線区、新幹線総局岡山区、岡山車掌区の原告所属組合員に対する人材活用センターへの担務指定は、それまでの職務と何ら変更がないというが、保線区の「線路保守グループ」は、人材活用センターが設置されるまでは、短期間のローテーションであったものが同センター設置後は固定化されている上、右線路保守グループが担当していた工事は、新会社が発足後は以前のとおり外注で行っているし、新幹線の保線管理についても従前なかった線路管理図作成など本来の線路検査等の業務とは異質のものが指示されている。また、車掌区の業務も特別改札ということであり、本来の業務の極一部に限定し、しかもそれ以外に本来業務には手を触れさせないというものであった。

一方、原告以外の労働組合所属の職員に対しても人材活用センターへの担務指定が行われたが、その内容は転換教育であって、短期間で指定解除されるものが大部分であった。

以上の事実を認めることができ、これに反する(証拠・人証略)は、前掲各証拠に照らして採用できない。

3  以上の事実によれば、人材活用センターにおける職務内容は、国鉄の増収増益につながらない仕事が多く、しかも閑散で、単純作業の繰り返しが多く、従事する職員に精神的苦痛を与えるものであること、職員が従前従事していた職務内容とは異なる職種が多く、同内容の場合であってもことさら単純作業のみに限定していること、また、人材活用センターに配置された職員の多くは、原職場とは別の詰所に移らされたこと、人材活用センターへ配置された職員の多くは、同センターが廃止される昭和六二年三月まで他部署へ移ることができなかったこと、人材活用センターが設置された昭和六一年七月には、すでに九万人以上の余剰人員がでることは周知の事実であったこと、そこで国鉄職員にとっては、新会社への採否が大きな関心となっており、右のような人材活用センターへの配置は解雇要員であるとの烙印を押されたものとの認識が広まっていたこと、新会社の職員採用については実質的に国鉄の選定に委ねていたことが認められる。

したがって、国鉄が、原告所属組合員を大量に人材活用センターへ配置したことは、原告所属組合員に精神的苦痛を与える労働に従事させ、実質上解雇要員であるとのレッテルを貼ったもので、原告所属組合員に対する不利益取扱いであると同時に、原告の役員をして組合活動に困難を与え、原告からの脱退を促進させるという原告に対する支配介入に当たるというべきである。

三  不当労働行為意思の有無について

1  国鉄幹部の発言、対応

前掲各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  国鉄本社職員局長葛西敬之は、昭和六一年五月、動労の役員会議で、国労の山崎委員長の腹をぶん殴ってやろうと思っている、不当労働行為は法律で禁止されているから、うまくやる旨の発言をし、また、国鉄本社車両機械課長の岡田圭司は、同月、全国の機械区所長に対して「国鉄改革のためには職員の意識改革が大前提である。意識改革とは、当局の考え方を理解し、行動できる職員を日常の生産活動を通じて作り込むことである。必ずそこに労使の対決が生じるが、これは不可避であり、管理者は、自分の機械区は自分の責任においてつぶすのだという居直りが不可欠である。大切なことは良い職員をますますよくすること、中間帯で迷っている職員をこちら側に引きずり込むことで、良い子、悪い子に職場を二極分化する事である。」旨の書簡を送った。

また、国鉄総裁は、同年七月の鉄労大会で「鉄労の国鉄の諸施策に対するスピーディな対応に感謝し、鉄労の勇気、行動力を賞賛したい。」旨の発言を、動労の大会において「国鉄の組合の中にも『体は大きいが非常に対応が遅い組合』があります。この組合と昔『鬼の動労』といわれた動労さんが手を結んだといたしますと国鉄改革どころではない。そのことを想像する度に、背筋が寒くなるような感じがします。」旨の発言を、更に同年八月の全施労の大会で「国鉄改革労働組合協議会の団結の陰に調整役をはたした全施労本部の役員に感謝する。」旨の発言をしている。そして、国鉄総裁は、鉄労、動労、全施労及び真国労で結成した国鉄改革労働組合協議会と第二次労使共同宣言を締結したことを受け、同年八月二八日、動労は昭和五七年以降国鉄の行った諸施策に協力し、分割・民営による国鉄改革にも賛成しているから、労使協調路線を定着させるため、二〇二億円訴訟を取り下げる旨の発言をし、同年九月三日、動労に対する右訴訟を取り下げたが、国労に対する訴えの取り下げはしていない。

(二)  昭和六一年一一月一日までに、全国で人材活用センターに担務指定された国労所属組合員は一万四九六〇人となっており、約八〇、八パーセントを占めているが、同日の組合員有資格者総数に占める国労所属組合員の割合は約四七・七パーセントに過ぎない。

2  岡山鉄道管理局及び新幹線総局岡山支局での実態

前掲各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  岡山鉄道管理局及び新幹線総局岡山支局における、昭和六一年一〇月現在の原告所属組合員の組合員有資格者総数に占める割合は五二・九パーセントであるが、同月末までに人材活用センターへ担務指定された職員に原告所属組合員が占める割合は約七七パーセントにも及んでいる。そして、他組合所属の職員に対する人材活用センターへの担務指定による職務の内容は、前記認定のとおり、主に転換教育を目的とするものであって、原告所属組合員が指示された職務内容とは質的に異なるものであり、これを除くと圧倒的に原告所属組合員が担務指定された割合が高くなる。

(二)  原告に所属していた職員であっても、人材活用センターに担務指定された後に原告を脱退した場合には、直ちにその担務指定は解除されて、原職場に復帰している者がある上、昭和六二年三月一〇日に人材活用センターが廃止された後、国労を脱退した者については原職又はこれと同等の職種に復帰させている。

(三)  人材活用センターは、余剰人員を効率的に活用するという趣旨で設置されたにもかかわらず、原告所属組合員を人材活用センターに担務指定した後、他の職場から人員を確保するために異動が行われている。

(四)  国鉄は、原告及び原告所属組合員らが、人材活用センターの担務指定を特定の個人に固定化することなく、短期間でローテーションさせるように申し入れたにもかかわらず、最終的に人材活用センターが廃止された昭和六二年三月一〇日まで担務指定を解除していない。

(五)  原告の分会役員が集中的に人材活用センターに担務指定されており、新たに分会役員に選出された者も担務指定されている。

(六)  昭和六二年三月一〇日に行われた人事異動において、原告分会の役員が他所に転出させられたり、原告所属組合員だけに異動があったり、さらには新会社発足後も、原告所属組合員は、本来業務から外されたままである。

3  以上の事実を総合考慮すると、国鉄は、分割・民営化に反対し、いずれの施策にも反対する国労を嫌悪し、他方、これに協力的な鉄労、動労などの組合員を優遇してこれらの協力を得て、分割・民営化を実現しようとし、そのためには国労の組織弱体化のために、国労所属組合員を冷遇することを容認していたものというべきである。そして、岡山鉄道管理局及び新幹線総局岡山支局も、原告に対して、差別意識を有していたと認められる。

四  因果関係について

1  前掲各証拠によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  人材活用センターに配置された原告所属組合員は、いずれも国鉄に長年勤務している職員であり、それぞれ専門的な職務に従事していたものであり、勤務成績が特別劣っているとか、上司に対する態度が不良であるとか、協調性に著しく欠けるところがあるなどの事実はない。

(二)  ところで、国鉄は、人材活用センターに職員を配置する際、当該職員に対しては、「適材適所である。」、「詳しいことはわからない、局の人事課が決めたことだからわからない」旨の説明しかなく、なにゆえ原告所属組合員が人材活用センターに配置されることになったかの合理的説明はしていない。

(三)  また、被告は、人材活用センターへの職員の配置については現場長に人選を委ねているといいながら、現場長を集めたり、あるいは文書でも具体的な基準を示したりしたことはない。

2  右事実と前記二及び三で認定した事実を総合すると、人材活用センターへの担務指定は、実質上配置転換というべきところ、国鉄が人材活用センターへ配置する職員を合理的な基準によって選定していたということはできず、また、職員らの同意も得ていないこと、原告所属組合員が原職を遂行する上で特別技能に劣るなどの事情は認められないことなどに鑑みれば、結局人材活用センターへの配置は、国鉄の差別意思に基づく選別の結果であると推認せざるをえない。したがって、国鉄の差別意思と人材活用センターへの原告所属組合員の配置とは因果関係を肯定できる。

五  違法性

人材活用センターへの職員の配置は、前記四のとおり実質的な配置転換であり、国鉄の裁量に属するものである。しかし、国鉄は、職員の任免を受験成績、勤務成績またはその他の能力の実証に基づいて行わなければならない(日本国有鉄道法二七条)上、勤務成績が良くない場合、心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合、その他その職務に必要な適性を欠く場合、業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合以外には職員の意思に反して降職され、又は免職することができない(同法二九条)のであるから、右裁量権はこの範囲内で行使されなければならず、平等原則に反し、原告所属を理由とする差別意思をもってなされた人材活用センターへの配置は、右裁量の範囲を逸脱したもので、原告所属組合員らに対し、他の職員と平等な取扱いを受けるとの法的保護に値する利益を侵害するものとして不法行為を構成するとともに、原告との関係においてもその団結権を侵害するものとして不法行為になるというべきである。

六  損害

国鉄が、原告及びその上部団体である国労を嫌悪、敵視し、原告所属組合員が原告に所属し、その活動に従事したことを理由として人材活用センターへ配置したことは前記のとおりであり、国鉄はその権限を濫用し、原告の団結権を侵害したものというべきであるから、不法行為に基づく慰謝料を支払う義務がある。

右慰謝料の額は、国鉄の嫌悪、敵視行為の態様、程度、その期間、原告の国鉄改革に対する態度等本件に現れた一切の事情を総合考慮して、金五〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上によると、原告の請求は、金五〇万円及びこれに対する昭和六一年一一月二三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梶本俊明 裁判官 下村眞美 裁判官岩谷憲一は転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 梶本俊明)

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